うみうし海底書庫

うみうし(内海郁)の作品倉庫です。

2022-01-16から1日間の記事一覧

beast of the Opera  三〈再会〉

三〈再会〉 記念公演当日。オペラ座周辺は、着飾った観衆達でごった返していた。ベルサイユを彷彿とさせる賑やかさとは裏腹に、地下は身が凍るほどの静寂を漂わせていた。ただ、一つの部屋を除いては。「エステル。ああ、エステル。素晴らしい。私の見立ては…

beast of the Opera 二〈怪人〉

二〈怪人〉 翌日、セザールが学院内図書室に訪れると、席にロジェがいた。じっと本にかじりつき、頭を抱えている。読んでいるのは初歩的な製本作業に関する教本だった。なかなか動かないペン先を見るに、問題に躓いているのだろう。「どうしたのロジェ」 小…

beast of the Opera 一〈守人〉

一〈守人〉 オペラ座の地下には、至宝が眠る。 この噂を聞きつけた荒くれ者は、至宝を我が物にしようとオペラ座の地下に自ら舞い降りる。だが一度降りたが最後、彼らが地上に戻ってくることはなかった。しかも、その事実を知っていながらも、自分は生き残れ…

beast of the Opera  序〈装幀師ラファイエット〉

序〈装幀師ラファイエット〉 パリの石畳の上を一人の女が進む。すらりと長い手足に黒ずくめのスーツがよく似合う、少し目尻の跳ねた強い顔つきの女性だ。 短く切り揃えられた巻き毛の黒髪は、纏う香水と共に風に揺られ、陶器の人形じみた無表情は、すれ違う…